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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)349号 判決 1989年7月13日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(主位的請求の趣旨)

被告は、原告ら各自に対し、株式会社エヌ・エス・エイ・ジェイ発行の記名式無額面普通株式につき、同社に原告の数に見合う数の一株券に分割請求手続をして分割、作成を受けたうえ、その株券各一通を引き渡せ。

2(予備的請求の趣旨1(一)、(二)は選択的請求)

(一)  被告は、原告ら各自に対し、株式会社エヌ・エス・エイ・ジェイ発行の記名式無額面普通株式各一株を譲渡し、その株券を引き渡せ。

(二)  被告は、原告ら各自に対し、株式会社エヌ・エス・エイ・ジェイ発行の記名式無額面普通株式各一株を譲渡し、同社に原告の数に見合う数の一株券に分割請求手続をして分割、作成を受けたうえ、その株券各一通を引き渡せ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(紛争の背景と原告らの地位)

訴外株式会社エヌ・エス・エイ(以下「旧会社」という。)は、栃木県大田原市にニュー・セントアンドリュースゴルフコース及びクラブハウス(以下「本件ゴルフ場」という。)を所有し、ゴルフ場を経営していたが、昭和五二年六月始めころ倒産し、本件ゴルフ場につき競売申立がなされるに至った。

旧会社の設営するゴルフクラブの会員組織であるニュー・セントアンドリュースゴルフクラブ・ジャパン(以下、「旧クラブ」という。)の理事らは、同年六月五日付書面により、旧クラブの会員に対して、会員の権利擁護とゴルフ場再建の対処策につき旧クラブの理事会に一任するよう求め、さらに同月一二日、ニュー・セントアンドリュースゴルフクラブジャパンゴルフコースを良くする会(以下「良くする会」という。)を結成し、旧クラブの会員に対して右良くする会への加入を呼び掛け、その年会費(千円)及び再建対策費としての臨時クラブ運営費(二万円)の支払いなどの協力を要請したところ、昭和五三年四月二五日までに右要請に応じた会員から三三六二万七七〇〇円の資金が集まった。

理事らは、その後、対処策を討議し、本件ゴルフ場の所有権を競落により取得すること、競落の主体となるべき法人を株式会社として設立すること、競落代金は、旧クラブの会員を対象として新たに会員募集を行い、入会希望者の拠出金をそれに充てることをそれぞれ決定した。

昭和五三年五月二日、旧クラブの理事長戸田慶一郎ほか理事四名、委員二名を発起人として、株式会社エヌ・エス・エイ・ジェイを良くする会(昭和六一年三月二九日に株式会社エヌ・エス・エイ・ジェイと商号変更。以下「新会社」という。)が設立された。新会社は、正会員については六〇万円、平日会員については四〇万円の競落資金を募集し、右募集でなお不足する分については借入をして、昭和五三年九月一六日に本件ゴルフ場を競落し、昭和五四年一月二五日にその競落代金を完納してその所有権を取得した。新会社は、その後昭和五六年一月一日、本件ゴルフ場の経営権を取得した。

なお、新会社は、昭和五四年七月二九日に新しい会員組織として、ニュー・セントアンドリュースゴルフクラブ・ジャパン(以下、「新クラブ」という。)を設立しており、原告らは、いずれも右新クラブの会員である。

2(主位的請求原因 停止条件付株式譲渡契約)

(一)  理事らは、旧クラブの会員に対し、理事らを株主として設立した会社において本件ゴルフ場を競落しその資金を新会社の設営する新クラブの会員からの拠出金によってまかなうという計画を立案したこと、この計画が成功したときは「メンバーのためのメンバーのゴルフ場」が実現すること、理事らが新会社の株主となるのは競売手続及び今後の運営のための暫定的な措置であること、いずれは新会社をメンバーの会社にするため新会社の株式をメンバーに公開し保有してもらうことを、理事会ニュースなどを通じて呼び掛けていた。原告らは、これに応じて、それぞれ右競落資金を新会社に対して支払った。

以上のような経緯からすると、新会社の発起人(理事)らと原告らとの間においては、新会社が本件ゴルフ場を競落してその所有権を取得することを停止条件として、新会社発行の株式を平等に少なくとも一株以上ずつ発起人らから原告らに譲渡する旨の合意が集団的、包括的に成立しているものというべきである。

(二)  新会社は、設立に際して二〇〇〇株、次いで昭和五四年一月三一日に二〇〇〇株の記名式額面普通株式を発行し、これらをいずれも新会社の発起人ほか一名(以下「発起人ら」という。)が引き受けた。昭和五八年二月一〇日、右四〇〇〇株は同数の記名式無額面株式に転換された。

(三)  したがって、原告らは、発起人らに対し、右(一)の株式譲渡の合意に基づき、右記名式無額面普通株式一株の株券の引渡を求める権利を有する。

3(予備的請求原因 委任契約又は準委任契約とその終了)

(一)  理事らは、旧クラブの会員に対して、前記1のとおり、会員の本件ゴルフ場に関する権利を守るための処理を理事会に一任すること、会員の団結を図るために良くする会へ入会して理事会を支援すること、その年会費及び再建対策費を支払うこと、競落資金を拠出することを求めるとともに、良くする会を法人化する趣旨で、自ら発起人となって新会社を設立した。原告らは、これらに応じて理事会に委任状を提出し、良くする会に加入し、右各金員を支払った。

以上のような経緯からすると、原告らと新会社の発起人らとの間では、本件ゴルフ場に関する原告らの権利を守ることに関する委任ないし準委任契約が、昭和五二年六月一二日から昭和五四年一月二五日までの間に、順次成立するに至ったものというべきである。

右委任契約ないし準委任契約は、前記1の経過からすると、競落資金拠出者を平等の株主会員として平等に本件ゴルフ場の所有権、経営権を取得せしめることをその本旨とするものである。

(二)  新会社の発起人らは、右委任事務の処理として、新会社の株式四〇〇〇株を引き受けてこれを取得した。昭和五八年二月一〇日、右四〇〇〇株は同数の記名式無額面株式に転換された。

(三)  右委任契約ないし準委任契約は、新会社の本件ゴルフ場の取得及びその経営権の取得により終了した。したがって、発起人らは、委任者である原告らに対し、委任事務処理に当たって取得した新会社の株式四〇〇〇株を譲渡、引き渡すべき義務があり、前記の委任の本旨に従えば原告ら各自に対して各一株の株式を譲渡、引き渡すべきである。

4 法人格否認の法理の類推適用

(一)  新会社の発起人らは、昭和五七年二月ころ、権利能力のない財団である被告を設立し、各自が保有する新会社の株式のうち、各自一株を留保して、残りの合計三九九三株を被告に寄付行為として譲渡した。被告は、被告名義の新会社の株券として、現在一〇〇〇株券三枚、五〇〇株券一枚、一〇〇株券四枚、一〇株券九枚及び一株券五一枚を所持している。

(二)  被告は、新会社の発起人らが新クラブの会員からの前記2(三)及び3(三)の株券引渡請求を免れる目的で設立したものである。また、新会社の発起人らは、被告の評議員であり、理事、監事の選任及びその他の重要事項を審議する評議会の過半数を制している。このような事実関係からすれば、被告は、いわゆる法人格否認の法理の類推適用により、新会社の発起人らと同視されるべきものである。

5 よって、原告らは、被告に対し、主位的に停止条件付株券譲渡合意に基づき請求の趣旨1記載のとおり、予備的に委任又は準委任契約の終了に基づき請求の趣旨2記載のとおり、株券の引渡し等を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告小野直明、同湶忠昭、同伊吹範司、同暮沢永夫、同新福康、同折田由雄、同古谷幸夫、同辻茂、同松永浩一、同三上栄夫、同大内好男、同清水良夫、同竹内文二、同日詰きぬ子及び同日詰覚(以下「小野ほか一四名」という。)が新クラブの会員であることは否認し、その余は認める。

2  同2(一)の事実のうち、新会社の発起人らと原告らとの間で原告らが主張する内容の停止条件付株式譲渡の合意が成立したことは否認する。同2(二)の事実は認め、同2(三)は争う。

3  同3(一)の事実のうち、理事らが良くする会の法人化として新会社を設立したこと、原告らと発起人らとの間で原告らが主張する内容の委任ないし準委任契約が成立したことは否認し、主張は争う。同3(二)の事実は認め、同3(三)は争う。

4  請求原因4(一)の事実は認める。同4(二)の事実は否認し、法人格否認の法理の類推適用の主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1のうち、以下の事実については当事者間に争いがない。すなわち、旧会社は、栃木県大田原市に本件ゴルフ場を所有しこれを経営していたが、昭和五二年六月初めころ倒産し、本件ゴルフ場につき競売申立がなされるに至った。旧クラブの理事らは、同年六月五日付書面により、旧クラブの会員に対して、会員の権利擁護とゴルフ場再建につき旧クラブの理事会に一任するよう求め、さらに同月一二日には良くする会を結成し、旧クラブに会員に対して、良くする会への加入とその会費(年間千円)及び臨時クラブ運営費名義の再建準備資金(二万円)の支払いなどを呼び掛け、その結果昭和五三年四月二五日までに会員から三三六二万七七〇〇円の資金が集まった。そこで理事らは、対処策を討議し、本件ゴルフ場の所有権を競落により取得すること、競落の主体として法人を設立すること、競落代金は、旧クラブの会員を対象として新たに会員募集を行い入会希望者の拠出金をそれに充てることを決定した。右方針に従い、昭和五三年五月二日、旧クラブの理事長戸田慶一郎ほか理事四名、委員二名を発起人として、新会社が設立された。新会社は、正会員については六〇万円、平日会員については四〇万円と割当金額を定めて競落資金を募集したうえ、昭和五三年九月一六日本件ゴルフ場を競落し、不足資金を銀行融資により補って、昭和五四年一月二五日その競落代金を完納しその所有権を取得した。また、新会社は、昭和五六年一月一日、本件ゴルフ場の経営権を取得し、昭和五四年七月二九日、新クラブを設立した。原告らのうち、小野ほか一四名以外の者は新クラブの会員である。

なお、原告らのうち、小野ほか一四名については、本件全証拠によっても新クラブの会員であると認めることはできない。

二  原告らは、その主位的請求原因において、原告らと新会社の発起人らとの間において、新会社が設立当時発行した二〇〇〇株とその後増資して発行した二〇〇〇株の合計四〇〇〇株の株式について、原告らがそれぞれ一株ずつ引き渡しを求めることができる旨の合意が成立していると主張するので、以下この点について検討する。

1  <証拠>によれば次のような事実が認められる。すなわち、理事らが昭和五二年六月一二日に良くする会を結成した趣旨は、会員が団結して大衆運動的に活動することにより、旧会社の債権者に対抗して本件ゴルフ場での会員のプレー権を確保することにあり、そのころは会員によるゴルフ場の自主経営といった方策について未だ具体的計画があったわけではなかった。昭和五二年一二月一八日の良くする会の委員会の席上で本件ゴルフ場の最低競売価格が約二〇億円と鑑定されたことが報告され、会員側でも競売に参加してこれを競落するとの方法をとる場合に備えて競落人となってゴルフ場を経営する主体となる株式会社を作っておいたほうが都合がよいという議論が出され、その会社の設立等については理事に一任することが決定された。昭和五三年に入ってからは、理事会の場で一方では同年四月末日に予定されていた競売期日の対応について議論がされ、他方関係人にゴルフ場を経営してもらう方法や旧会社について会社更生の申立をする方法も検討されたが、結局会員自身の手で本件ゴルフ場を競落して会員自身がその経営に当たるほかはないとの基本的方針を決め、昭和五三年五月二日、理事らが発起人となり、資本金を一〇〇万円、発行済株式総数を二〇〇〇株とし、発起人ほか一名が株式を引き受けて新会社を設立し、同年五月三日の良くする会の委員会の席上で右の経過報告が行われた。その後、同年六月一七日の理事会において新会社が本件ゴルフ場を取得することとし会員からの拠出金をもって右取得資金にあてることを、次いで同年七月一一日の理事会において右拠出金の金額や払込締切日を決定するに至った。なお、新会社の株式を将来新株発行の方法により会員に保有させることは理事会内で当然の了解事項とされていた。また、右拠出金の払込締切期日までにこれに応募した会員は約一八〇〇名であり、その後再度の入会要請を同じ条件で行った結果、合計二九四三名の応募があった。競落代金のうち右の会員から拠出された金員でなお不足する部分については、戸田慶一郎ほかの理事の個人保証により銀行から五億円を借り入れた。さらに、昭和五四年一月三一日、新会社の資本金を二〇〇万円に増資して二〇〇〇株の新株を発行し、右株式についても発起人らがこれを引き受けた。以上の事実が認められるのである(なお、原告は、新会社の資本金一〇〇万円が良くする会が旧会員から集めた年会費や臨時クラブ運営費から拠出されたとしているが、<証拠>によると新会社が設立される直前である昭和五三年四月二五日現在、年会費及び臨時クラブ運営費の残高が二三四四万八三五円であったことは認められるものの、<証拠>に照らすと、右事実から直ちに右金銭が新会社の設立にあたり資本金として使用されたと推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。)。

2  <証拠>によれば、旧会社が倒産した昭和五二年六月ころから新会社が本件ゴルフ場の所有権を取得した昭和五四年一月ころまでの間に、戸田慶一郎ほかの旧クラブ理事らは、旧クラブの会員に対し、書面により、以下のような内容の報告及び呼び掛けを行っていたことが認められる。

(一)  昭和五二年六月五日付「会員に訴える」と題する書面(<証拠>) ゴルフ場を守るためには会員の団結が必要であり、今後予想される困難に対処し適切な処置を期するため、本理事会に全面的に協力していただくように訴える。ついては、同封の委任状ハガキで理事会宛宜しく一任されたい。

(二)  理事会ニュース(昭和五二年六月)(<証拠>)

理事らは、六月一二日の委員会の席上、会員の権利を守る行動を団結して組織的に行うこと、会員による会員のためのゴルフコースの実現を期すること等を目的として、良くする会を結成した。会員の賛同をお願いする。良くする会の会費は年千円である。

(三)  昭和五二年八月一日付「ゴルフコースを良くする会について」と題する書面(<証拠>) 良くする会への入会呼び掛けに対して、同年七月二〇日の段階で千名以上の会員から賛同があった。

(四)  理事会ニュース(昭和五二年一二月)(<証拠>)

現在はコースで一応プレーができるという暫定状態でしかない。理事会としては、旧会社の再建が不可能であるので、自らの手で本件ゴルフ場の競落に対処することが最も適切であると判断している。その具体案は検討中であるが、その場合は会員に対して追加金の支払いを呼び掛ける予定である。また、良くする会を法人化すべく準備中である。ゴルフクラブの運営を旧会社とは独立した立場で行うための経費及びクラブ再建対策費としての臨時クラブ運営費二万円の納入を決定し、良くする会において徴収することとした。

(五)  「会員に改めて訴える」と題する書面(<証拠>)

昭和五二年一二月二八日に委員会を開催した。その席上、再建策の一環として、会員の利益に奉仕する法人を理事らを中心に設立することとし、その具体的内容は理事会に一任するとの決議をした。旧クラブは旧会社の倒産により財政的な基礎を失っており、再建を希望する会員に是非臨時クラブ運営費を送金支出してもらうことを希望する。これは旧会社の年会費ではなく、良くする会で保管、管理して会員の利益確保の目的のみに支出されるものである。

(六)  理事会ニュース(昭和五三年七月)(<証拠>)

五月三日に委員会を開催した。その席上、良くする会の収支報告がなされ(二三四四万八三五円の残高がある)、さらに、本件ゴルフ場が競売されるときはその所有権を取得すべく努力すること、そのため良くする会を法人化すること、そのためには会員に対して追徴金の協力をもとめることがあるとの結論に達した。

(七)  理事会ニュース(昭和五三年七月)(<証拠>)

六月一七日に理事会を開催し、競売期日が同年九月一六日と指定され傍観していると第三者に競落される危険があるため、理事らを株主として設立した新会社において本件ゴルフ場を取得すること及びその取得資金はメンバーからの拠出金から賄うことを基本方針として決定した。これが実現したときは、我々が理想とする「メンバーのためのメンバーのゴルフ場」が実現するので、この基本方針実現のために協力をお願いする。

(八)  理事会ニュース(昭和五三年八月)(<証拠>) 基本方針を実現するための具対策が七月一一日に理事会で決定され、同月三〇日に開催された委員会で承認された。その内容は、<1>旧クラブの正会員は六〇万円、平日会員は四〇万円の拠出金(入会保証金)を新会社に支払うことにより新会社のメンバーとなり、<2>新会社への入会申し込みをしない旧クラブの会員は、本件ゴルフ場でプレーする権利を失い、<3>拠出金の性質は預り保証金とし、<4>申込み及び払込の締切は同年九月七日とするというものである。また、新会社は現在の緊急事態に対処するためとりあえず理事者らを株主として設立された会社であり、この計画が成功した場合は、この新会社をメンバーの会社にするため、メンバーに株式を保有してもらうなど種々の施策を考えている。理事者は会員の代表者であり、他のゴルフクラブに見られるような経営会社の意を受けたあるいは経営会社の関係者が理事となっているような理事者ではなく、正しく会員の利益を代表する理事者である。

(九)  理事会ニュース(昭和五三年一〇月)(<証拠>)

九月一六日競落に成功した。九月七日の募集締切日までに応募した会員数は約一八〇〇名であり、この拠出金合計額は一〇億円余に達している。しかし競落金額は二〇億二千万余りであるから、なおこの金額には不足している。そこで再度旧会員に対して入会勧誘を行う。

(一〇)  会報(昭和五四年一月)(<証拠>) 競落代金を納入し、本件ゴルフ場の所有権を取得した。正会員は約二五〇〇名、平日会員は約五〇〇名である。メンバーのメンバーのためのゴルフクラブを実現するため、何人も特別の支配権を持たず、ガラス張りの運営がなされることが必要であり、その為にはクラブの理事者は会員の意思によって選出すること、新会社の株式を公開して会員に保有してもらい、会員でこの新会社及び新クラブの運営にあたることを基本方針にすべきであると考えている。本年八月末までには株式の公開を行うべく準備をすすめている。

3  以上の事実を総合すると、原告らと新会社の発起人らとの間には、理事らの上記(一)ないし(一〇)のような呼掛けに応じて原告らが競売資金等を拠出したことにより、新会社が本件ゴルフ場の競落に成功したときには、拠出した六〇万円ないし四〇万円の代償として、原告らの本件ゴルフ場でのプレー権を保証する旨の合意が成立するとともに、メンバーのためのメンバーのゴルフ場を実現するという理念のもとに、新会社の発行する株式を将来において会員各自に保有させるとの方針が確認されるに至っていたものと認めることができる。しかしながら、新会社の資本金及びその資金源や発行済株式総数の具体的内容等は原告らに対して明らかにされていないばかりか、原告らが将来保有すべき株式の種類、数額やその価格あるいは株式割当の時期、方法等新会社の株式を会員各自に保有させるための手続等の具体的内容も何ら明らかにされていないことからすると、会員による新会社の株式保有という点は、右の時点では、ゴルフ場経営の理念あるいは将来実現されるべき一般的抽象的な方針として宣言されるにとどまっていたものと解されるのであって、すでにこの時点において、原告らと発起人らとの間で、昭和五四年二月までに発行済みの新会社の四〇〇〇株の株式を新クラブの会員に保有させる旨の法的拘束力を伴った具体的な合意が成立するに至っていたものとすることは到底困難なものといわなければならない。

したがって、原告らの主位的請求原因はその余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

三  次に、原告らの予備的請求原因について判断する。

前記認定事実によれば、旧クラブ理事らは、昭和五二年六月五日付書面をもって、旧クラブ会員に対し今後ゴルフ場を守るための適切な処置をとるべく理事会に協力し理事会にこれを一任するよう求め、同月一二日には旧クラブ会員の権利(いわゆるプレー権)を守るために団結して組織的活動を行う必要があるとして良くする会を結成し、旧クラブ会員にこの会への参加を呼び掛け、その趣旨に賛同する会員から会費及び経費等を徴収していたのであるから、旧クラブ理事らと良くする会に参加した旧クラブ会員との間には、本件ゴルフ場におけるプレー権の確保のために必要な種々の行動を右理事らが旧クラブ会員のために行うことを約する旨の一種の準委任契約に類するような合意が成立したものと解される。そして、旧クラブ理事らは、右の合意に基づき、昭和五三年五月二日、本件ゴルフ場を競落してその経営に当たるための新会社を設立することとし、その株式二〇〇〇株を引き受け、その後増資により更に二〇〇〇株の株式を取得するに至ったことは前記認定のとおりである。

しかしながら、前記認定のとおり、新会社を設立してその会社が本件ゴルフ場を競落するという方針は、旧クラブの理事らが発案し、終始その主導により計画の立案と実行が行われてきたものであり、右新会社の設立のための出資金や増資の際の出資金も、<証拠>によれば、旧クラブ会員から拠出されていた良くする会の資金をこれに充てることは相当でないとして、右理事らが個人の立場でこれを出捐したというのである(原告らは、右の出資金はいずれも旧クラブ会員の拠出した良くする会の資金によってまかなわれていると主張しているが、右の主張を認めるに足りる証拠のないことは前記認定のとおりである。)。この事実からすれば、右旧クラブの理事らが新会社を設立して自らその株式を取得したという行為が、前記の合意において委任者の立場にたつ旧クラブ会員のための事務として行われたとすることには疑問があるものといわなければならない。現に<証拠>によれば、その後昭和五四年七月二九日に開催された新クラブの会員の総会においても、右のように旧クラブの理事らが新会社を設立し、自らがその株式を取得しているということを前提としたうえで、さらに前記のクラブの会員各自にも新会社の株式を保有させるというかねてからの方針を実現するための具体的方策として、新たに新会社の新株発行を行いこれを会員に引き受けてもらうという方法が提案され、大方の賛同を得てその後右の方針が実行に移されていることが認められるのであって、この事実からしても、旧クラブの理事らによる前記新会社の株式の取得という行為自体は、その株式をさらに会員らに移転するというのではなく、専ら右理事ら個人にのみ法的効果の帰属すべき行為として行われたものであり、また旧クラブの大方の会員の側でも、とくにこの点について異を唱えてはいなかったことが推認されるものというべきである。

そうすると、右理事(新会社の発起人)らによる新会社の株式の取得が委任事務の処理として委任者である原告らのための事務としてなされたことを理由とする原告らの主張はその前提を欠くこととなるから、原告らの予備的請求原因もまた、その余の点について判断するまでもなく理由がないものとせざるを得ない。

四  以上によれば、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないこととなるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条及び第九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 佐藤陽一 裁判官 谷口 豊)

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